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NIKKEI OFFICE PASS AWARDが今年も開催されました。
ユーザーが自らのお気に入りオフィスに投票し、受賞店舗が決まるこちらの企画。
NIKKEI OFFICE PASSの利用企業では既に、全国1300カ所の中から、従業員それぞれが自分の好みや業務に合わせた働く場所を選択。自律的な働き方を実現できています。
今回お話を伺うのは、「ワーケーション社労士」こと岩田佑介氏。
聞き手はOFFICE PASS事務局です。
働く場所の選択肢を広げることが、企業の成長にどう影響するのか。プロの目線から語っていただきました。
ーー本年度も、NIKKEI OFFICE PASS AWARD2025が開催されました。ユーザー投票をもとに、「2025年に使ってよかった」店舗を表彰する企画です。ワーカーが働く場所を選択できる環境づくりを、岩田さんは「経営戦略」だと位置づけていますね
はい。
オフィスに縛られずに働く場所を選べる状態を作ることは、単純な福利厚生ではなく、経営戦略・人材戦略そのものだと考えています。
これは私個人の持論というだけでなく、経済産業省も、働く場所を選べることを人的資本経営のベースに位置づけています。
参照:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf(人材版伊藤レポート2.0)
ーー具体的に、働く場所を選べるようになることで、企業にはどんなメリットがあるのでしょうか?
大きく分けると、
「人材の獲得・定着」
「組織改革とイノベーション」
「生産性とエンゲージメント向上」
の3つです。
最初の2つについては、「働く場所を自由に選べる」という状態のベースにある「テレワーク」の効果に近い部分もあります。
ここで補足したいことが2つあります。
1つは、「一度、自律的な働き方を経験した人は、時間や場所が固定化された従来型の働き方にはもどれない」ということ。
もう1つは、「特別扱いではうまくいかない」ということです。
まず1つ目について。
一度テレワークや柔軟な働き方を経験した人の多くは、次の職場選びの際に「同じような働き方ができるかどうか」を強く意識します。
コロナ禍を経て、ほとんどのビジネスパーソンがテレワークを経験していますから、
今では「働き方を選べるかどうか」は、特定の層だけでなく、多くの働き手にとって当たり前に気にされる条件になっています。
2つ目の「特別扱いでは駄目だ」という点も重要です。
たとえば、
「子育て中の人はテレワークOK、ただしそれ以外の人は出社必須」
という形にすると、結局は出社前提で業務が設計され、支援が必要な本人が孤立してしまうケースが少なくありません。これでは十分なパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。
介護や育児など、特定の事情がある人だけが使える制度ではなく、
誰が、いつ、どのような状況になっても仕事を続けられる状態を、あらかじめ組織全体で作っておくことが重要です。

そして、「選べる」という状態は、3つ目の「生産性とエンゲージメント向上」とも深く関わってきます。
ーー働く場所を選べることが、生産性やエンゲージメントに本当に繋がるのでしょうか。場所を変えると、生産性が下がるという声もありますが……
短期的には、そう感じる場面もあるかもしれません。
しかし、場所を「自分で選ぶ」ことの効果は、長期的な生産性の向上にあります。
働く場所を選ぶことは、ABW(Activity Based Working:業務を起点に働き方を設計すること)の実践そのものです。
どこでも働ける、というのは「どこでも同じ」という意味ではありません。
仕事に合わせて環境を選ぶためには、「自分はどんな業務をしていて」「どんな環境で成果が出るのか」を見直す必要が自然と出てきます。
この「業務を分析して場所を選ぶ」という行為を繰り返すことで、
仕事を俯瞰し、自分でマネジメントしようとする姿勢が育っていきます。
結果として無駄に気づきやすくなり、視座も上がる。
こうして人が育つことで、長期的な生産性向上につながっていくわけです。

ーーここまでのお話を聞くと、とにかく「選ぶ」ことが大事で、場所そのものはあまり関係がないようにも聞こえますが……?
そんなことはありません(笑)。
働き方の要素を分解すると、主に
「業務内容」
「時間」
「場所」
あとは「人」でしょうか。
これをそれぞれ見ていくと、企業が営利組織である以上、業務内容や人について、個人が大きな決定権を持つのは難しい。
時間についても、フレックスなどは進んでいますが、完全に自由にするのは現実的ではありません。
一方で、場所はどうでしょうか。
比較的個人に委ねやすく、なおかつ企業としても設計しやすい要素です。

特に日本企業は、仕事・時間・場所をすべて縛りがちです。
だからこそ、まず「場所」から変えるだけでも、組織は大きく動き始めます。
ーーこうした変化は、どのくらいの期間で起こるものなのでしょうか?個人の意識の変化や成長となると、それなりに時間がかかりそうですが……
制度やサービスの導入によって場所の選択肢が増えると、多くの企業で次のようなステップが見られます。
1)個々の従業員の“ペイン(不便さ)”が解消される
2)働き方への意識が個人単位で変わる
3)自律した個人が増え、組織全体が変化する
この変化は、半年〜1年ほどで起きることも少なくありません。
意外かもしれませんが、コロナ禍では、多くの企業がこれに近いスピード感を経験しましたよね。
その後、揺り戻しが起きたのは、この変化が外的要因によるものだったからです。
そんな変化を経た今だからこそ、経営戦略として意図的に「選べる状態」を設計することが、持続的な施策になります。
ーーここまでは「選択肢がある」ことの効果でしたが、使い方によっては、さらに効果が広がるのでしょうか?
会社や自宅、取引先の近くなどから選べるだけでもよいのですが、
そこに「非日常」の要素が加わると、もう一段効果が高まります。
いわゆる「修学旅行効果」というものです。
ーー修学旅行効果?
そのままです(笑)。
修学旅行で、普段行かない場所に行き、同じ体験をして、同じ空間で過ごすうちに、
それまで関わりのなかった人と急に距離が縮まった経験はありませんか。
大人のチームでも、同じことが起きます。
普段はそれぞれが別の場所で働いている組織でも、少しオフィスから離れた場所に足を運び、一緒に働くことで、驚くほど関係性が深まることがあります。
ーー非日常空間でチームで働くとなると、何か特別な研修が必要でしょうか?
必ずしもそうではありません。
せっかく非日常の環境にいるのなら、おすすめは「普段はしない対話」をすることです。
ビジョンや価値観といったテーマを、対面で話すことですね。
それだけで、相手の言動の背景が見えてきます。
普段のオフィスで毎日顔を合わせていても、
「なぜその人がそう考えるのか」までは、意外と知らないもの。
例えば、普段とは違う会議室に集まって、一度でもこういう対話をしてみる。
そうすると「だからあの人いつもこう言ってるんだ」という発見が得られ、普段の業務に戻ってからの納得感が違います。

(OFFICE PASS事務局でも、社外の会議室でミーティングを行うことがあります。楽しかった!)
ーー非日常というと、普段の環境から離れた地域で働くことにもメリットがありそうですね
あります。
普段の環境から思い切って離れる「越境」の体験は、経営人材の育成にも繋がります。
現場のプレイヤーとして優秀な人ほど、自分の業務に集中するあまり、
社会課題や地域課題といったテーマに触れる機会が少なくなりがちです。
ところがこういったテーマこそ、経営に携わる人材としては関心を持ち、他社や他業界の人と語れるようにしておかなくてはならない話題。
実際に地域に足を運び、現地の人と話すことで、それまで「遠い話」だった課題が、一気に自分ごとになります。
視座が上がり、経営に必要な考え方が身についていくのです。

そんな単純な、と思うかもしれませんが、自分の会社に閉じこもっている企業のリーダーって、あまりいないと思いませんか?
企業のトップは様々な場所に行き、多様な人と会い、という「越境」体験をすでに行っています。それでこそ持つことができたアイデアや課題意識が沢山あるはず。
企業のトップはそれを自覚して、同様の体験を早いうちから社員にさせようとすること。それだけでも、社員の意識が変わり、企業が変わる第一歩になります。
ーー実際に様々な土地や場所に足を運ぶ「越境」によって、リーダーに必要な問題意識が育っていくということですね。これは、経営陣になってからではなく、その前から経験しておきたいものですが……
そうなんです。とは言え、現実的に、そうした人たちが目の前の仕事から離れられない理由は、
「仕事を置いていけない」からですよね。
だからこそ、仕事をどこにでも持っていける、持っていっても安心して働ける場所がある、環境を整えることが重要になります。
現場から人を引き離すことなく、次世代リーダーの育成も両立する。これは、場所を整えることで実現できる課題解決なんです。
ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします
働き方の要素の中で、最も変えやすいのは「場所」です。
もし、あなたの会社が何の課題もなく完璧に回っているのであれば、無理に変える必要はありません。
しかし、少しでも「変えたい」「変わりたい」と思うことがあるなら、まずは場所の選択肢から見直してみてください。
会社だけ、自宅だけ、特定の人だけ、ではなく、
誰もが、自分で働く場所を選べる状態をつくること。
これができれば企業は想像以上のスピードで進化していきます。
岩田 佑介
特定社会保険労務士
一般社団法人日本ワーケーション協会 公認ワーケーションコンシェルジュ
パソナにて官公庁の地方創生プロジェクトの立ちあげに従事した後、ライフネット生命保険の人事部長としてテレワーク、副業・兼業などの働き方改革やダイバーシティ戦略を統括。
その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティングで組織人事コンサルタントを務める。
2021年より観光庁「新たな旅のスタイル促進事業」「ワーケーション推進事業」アドバイザーに就任。社会保険労務士として「時間や場所にとらわれない働き方」を普及・推進している。
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